「我国のMBR導入状況と欧州のMBR標準化の動向」

               日本下水道事業団技術開発部         村上孝雄部長

・ 我国におけるMBRの導入状況

 JSではこれまでMBRの技術開発から実用化まで担ってきた。膜の価格が下がってきたという情勢を受けて、1998年より都市下水処理への適用について実験プロジェクトを開始した。これらの実験プロジェクトの知見を技術評価委員会で集約し、2003年に技術評価書を発行した。そして2005年に最初のMBR下水処理施設が建設され、現在では9施設が稼働中である。

     

         図−4 下水道における膜分離技術への期待

 

 MBRは、簡易でしかも清澄な処理水が得られるプロセスとして、現在では小規模施設に適用されているが、今後、高度処理、処理場更新時、サテライト処理場適用(親水用水)、ノロウイルス対応プロセスなどとして、適用事例が大きく増えることで期待が掛けられている。(図−4

 MBRの課題としてはコストとエネルギー消費が考えられる。価格のほうは、市場の拡大によりかなり低下してきており、欧州では1m2当たり50ユーロまで来ている。MBRの電力消費は現在、0.8 kWh/m3程度であるが、OD法の0.6kWh/m3(処理規模3,000m3/日以上)、標準法0.48kWh/m3(10m3/日以上)に比べ少し高い。しかし、ベルギーのSchilde下水処理場では 0.62kWh/m3, シンガポールでの実施例では0.55kWh/m3(汚泥濃度を下げて運転)という省エネの進んでいる例も出ている。

・ 欧州におけるMBRの標準化

 欧州ではMBRの適用事例が増えてきており、初期導入のステップから大規模処理施設を目指しての最適化、再構築時のMBRと従来法の並列運転への適用など、次のステップに移りつつある。こうしたことから、各メーカー機器の互換性の要請、欧州製品の優位性の保持、そして技術標準化について現在が適時であるという判断の下、MBR技術の標準化作業が開始されている。EUMBR開発プロジェクトAMEDEUS(Accelerate membrane development for urban sewage purification  期間2005-2008)に従事した産官学のメンバーを主に、CENEuropean Committee for Standardization 欧州標準化委員会)の中にCEN Workshop N34(MBR技術)が組織された。その座長は、ドイツのKassel大学Frechen教授である。標準化作業の内容は@用語の定義・統一、A性能評価方法、B膜の互換性を加味した設計の考え方、が主となっているが、20076月のキックオフミーティングから精力的な作業がなされ、2008年6月にはワークショップの合意文書(CEN Workshop Agreement, CWA)が出されている。MBRシステムは図−6のように3つのタイプに分かれるが、今回のCWAでは浸漬型と膜分離槽別置型のものが標準プロセスとして取り上げられており、分離型の優位性に言及しているのが特徴である。CWAは、MBRの標準化議論のための共通認識を整理したものというレベルのものであり、現在EU基準ではないが将来は基準化される含みもある。CWAの内容については、”CEN”,” MBR”でワークショップのホームページがヒットするので、詳しくはそちらを見ていただきたい。

     

            図−6 膜ろ過システム