三位一体改革における流域下水道の取り扱い
 

 [背景]

地方6団体は8月24日総理大臣に対し三位一体改革に関する基本的考えの答申を提出した。

この中で、6団体(主として全国知事会)は今後2カ年間で実施すべき総額3兆2000億円の補助金削減対象として公共事業5000億円を計上した。その中には流域下水道分が1050億円がふくまれている。

「流域下水道は都道府県事業であるから、税源を地方に移譲してもらえばそれを原資とし、知事裁量で事業は実施できる」とするものである。

[意見]

結論:流域下水道を地方の単独事業とすることについて反対する。

理由:

1. 公共用水域の水質保全の一元的・国家的管理

流域下水道の役割には色々あるが、其の最も大きな目的は、対象流域から排出される下水を収集し、安全衛生的に処理して対象水域に放流し、その水域の水質保全を確保することにある。

日本は周囲を海に囲まれているため、国際的な問題とはならないが、国境を陸地で接している国々にとって、国際河川や国際海域等、公共水域の水質保全は、環境保全の一環として地球的規模で考えるべきものであり、地域の問題として局所的に取り扱う事が出来ない。国土防衛 にも似た性格を有するものである。

良好な環境は、国土のどこに住み、訪れても、国民は等しくこれを享受する権限を有して居る。良好で同等な環境の質はナショナルミニマムとして国が責任を持って其の水準を確保すべきものでもある。したがって、国が強い権限をもって全国一律にこれを保証する必要がある。

このことから広域的な水質保全施設である流域下水道は、国の関与と責任のもとに築造管理される必要がある。国全体として水質環境の質の均衡を保ちつつ、計画的に整備を進め、施設のあるべき技術水準を保持し、其の能力が発揮される様にしなければならない。このためには、国の強力なリーダーシップのもと資金面、技術面における助成によって政策的誘導が行える様にしておかなければならない。

2. 下水道事業の財源構成のアンバランス化

流域下水道は、都道府県事業として実施されるが其の対象は終末処理場とポンプ場を含む幹線管渠だけであり、各戸と連結する支線管渠群は関連公共下水道として市町村の手によって整備維持される。したがって、両者が一体となって整備され供用に付され たときはじめて下水道としての機能が発揮される。いわば一物二管理者で運営されている公共施設である。

現状の事業財源を見ると、高い補助率のもと国庫補助金が充当され、都道府県と関連市町村が折半して財源を負担している。国庫補助金が廃止されると、関連市町村は国庫補助金相当分のも負担しなければならず、市町村にも税源移譲が行われないと市町村財政を脅かすことになる。一方、移譲税源を原資にして都道府県が総てを負担する事にすると、通常の公共下水道事業との間に著しい不公平を生じる事になる。

このように、現状で何とか均衡がとれている下水道事業財源問題を混乱させ、バランスが崩れる。

流域下水道及び関連公共下水道の財源構成については其の性格をじっくり吟味して関係者の役割と責任のあり方をきちんと定め、それに基づいた負担割合を決めるべきで、拙速に都道府県単独事業に移行するべきでない。

3. 事業執行における検査体制の脆弱化

現在、殆どの公共事業には国費が投入され建設が行われている。国費が投入されているが故に、其の経費支出の執行が適切に行われているか否かについて会計検査院の検査が厳重に行われている。この検査は苛斂を極め、著しく不適切なものは国会に報告され、当事者は行政処分を被る事もある。このため国庫補助事業の執行が適正に行われている側面が強い。会計検査員の検査はプロフェッショナルなものと言ってよく、都道府県単独事業となったとき、同等な検査が実行できるか疑問である。会計検査院並の検査体制を都道府県に整えるためには多大な経費を必要とし、体制確立までに相当な年数が掛かる。

現状の脆弱な都道府県の検査体制では目こぼしがで、結果として経費の散漫な執行に結びつく恐れがある。