アナモックス反応に注目


1914年にイギリスのマンチェスター市デビーヒューム下水処理場で活性汚泥法の名称が始めて用いられ、日本の大都市にその技術が後日伝達された。日本で活性汚泥法が採用されて約80年が経過しているが、その後の多くの実データーの積み重ねから現在の中大規模下水処理場では標準活性汚泥法が下水処理法の主流である。

最近では下水中の窒素やリンを同時に処理除去する目的で活性汚泥法を改良した嫌気・無酸素・好気法等が多く採用されている。それだけ放流先の水質環境基準レベルが厳しくなり、より良い水質環境を回復したい、維持したい国民の総意であろうと思う。この嫌気・無酸素・好気法は良好な処理結果を多く示し、高度処理対応処理法のエースになろうとしている。

このような経過から、標準活性汚泥法や嫌気・無酸素・好気法は非常にすぐれた処理法であるとの固定観念が一般に浸透している。しかし、活性汚泥法は多量の電力(小規模では下水1m3あたり0.8kwh、大規模では同じく0.3kwh程度)を消費し、難脱水性余剰汚泥(標準活性汚泥では除去SS量の100%の余剰汚泥が発生するが、小規模施設用のOD法では同じく75%、嫌気好気性ろ床法では同じく30%以下)を多量に発生する等の諸問題は現状の省エネルギー、地球温暖化対策および汚泥の処理処分地の不足などの問題から考えると再考すべき時であろう。

嫌気・無酸素・好気法で窒素やリンを生物学的に同時に除去するには、BOD:N比やBOD:P比が重要であるが、一般の下水では嫌気性条件下での窒素やリン除去に必要なBOD成分が不足する場合が多く、外部からのBOD源が必要であることは案外軽視されている。

汚水中の有機的及び固形的窒素は先ずアンモニアに分解され、バッキにより硝酸に酸化されて後、適正なBOD:N比になるようにBOD源を添加して経済的な反応時間内で窒素を水系から除去しているが、多量の電気エネルギーの消費、外部補給BOD源の必要性及び多量の余剰汚泥の発生等の問題点がある。

しかし窒素やリンに関して高い除去率が求められる処理施設を計画設計する場合、外部からBOD源を補給するか、又は2段、3段ステップ流入循環式硝化脱窒法等を採用する必要がある。この外部補給BOD源が残存すると見かけ上の処理水BOD除去率が低下する矛盾が生じる。特に合流式下水道では雨天時のBOD:T−NやBOD:T−P比率が異なり、また、分流式下水道でも雨天時には雨水が混入して流入下水量が増加する実態があって、合流式下水道と同様な水質条件となり、T−P及びBOD除去率等が低下する問題が生じる。

最近、嫌気性アンモニア酸化反応を利用して下水処理水中のアンモニアを除去するアナモックス反応が注目されている。この処理法は1990年代からオランダのデルフト工科大学などで研究され、現在、ロッテルダム市の下水処理場で汚泥施設からの脱離液中の高濃度なアンモニアを効率よく除去しているほかに、2箇所の工場排水中のアンモニア除去にアナモックス反応を利用した実用施設が稼動し、日本では三重県の半導体製造工場からでる高濃度なアンモニア排水をアナモックス反応で窒素除去する施設が平成18年度途中から稼動している。

従来の窒素除去法に比較して、アナモックス反応によるアンモニア除去法は、前半で排水中のアンモニアの約60%をDO制御しながら担体添加した通常の反応槽で亜硝酸まで酸化し、後半で残り約40%のアンモニアと混合してUASB法型の反応槽を用いて、即ち、アナモックス菌をグラニュール化した汚泥中に高濃度に維持して短い反応時間で窒素ガスとして大気に放出することで90%の窒素を効率的に除去する処理法である。このようなアナモックス反応は2槽型といわれ、オランダでは1槽型もある。UASB法は通常発展途上国では処理単価が安い処理法として多数採用されているが、国内では高濃度な食品加工排水の処理法としても採用されている。

このように実施設が稼動している半面、熊本大学、日立プラントテクノロジーや栗田工業などでアナモックス反応に関する基礎的研究も平行して進められている。この反応の問題点の1つとして排水中のBODに対してアンモニアの濃度が高い場合にしか利用できないことで、BOD濃度が高いとアナモックス菌より一般のBOD菌の増殖が大きくなり、アナモックス菌を維持できないことである。ゆえに通常の流入下水に直接このアナモックス反応を現在の処理技術開発段階では利用できない。

それで現在は汚泥処理施設からの場内返流水中の高濃度なアンモニアの効率的な除去により処理水のアンモニア濃度を削減する方法として考えられている。これは汚泥返流水中の高濃度なリンを晶析脱リン法で効率的に除去することにより処理水のリン濃度を放流規制値以下にしようとするのと同じ考えである。

この新しい処理法では除去アンモニア量の約7%の余剰汚泥発生率であること及びメタノール無添加による汚泥転嫁率が低いことなどから 総合的に小さい汚泥発生量であること、完全硝化に比較して約60%分のアンモニアの亜硝酸化で十分であるため電力消費も従来法の約50%と少ないこと、反応槽の大きさも担体添加型の亜硝酸化槽と高効率なUASB槽型であるので必要用地は従来法の1/4程度で済む等、省エネルギー化、省スペース化、コスト縮減化などが図れる大きなメリットがある。

現状の社会経済状況から従来の活性汚泥法の固定観念を打破してアナモックス菌の下水処理分野への益々の応用に関する技術開発とエンジニアリング化を期待している。

水道公論-技術評価より載録