下水処理水の有効利用
 


本論文は、「正論広場」における、「望月倫也」氏の「開放海域に放流すれば、高度処理無用」の意見に対する、「有効利用」の面からの意見の続きです。 本論文を読まれる前に、まず「正論広場」の望月氏の意見から御一読頂く事をお勧めいたします。

1.はじめに

地球上の約4分の3が海に覆われており、地球は水の惑星といわれている。 しかし、人類が利用可能な水、特に飲用水として利用可能な水はほんのごくわずかである。 その飲用可能な水を、文明の発達により、工業利用、農業利用してきてしまったために、さらに飲用可能な水の量は少なくなっている。

そして、地球温暖化を防ぐ、最大の役割を担っている陸上植物の多くも、淡水しか利用できない。 その植物も環境破壊による砂漠化の進行で、毎年、日本列島の四国に相当する面積の植物が失われてきていると聞く。

われわれ水倶楽部の会員は、人類がその文明活動の為に、自然界の自浄能力以上に汚染してしまった水を、人間の力で少しでも浄化して自然に帰すことにより、自然界の大きな水循環の一翼を少しでも担おうという使命を持って活動している。

つまり、人類が必要以上に汚染してしまった水を、人類が責任をもってきれいにしましょうという事です。


2.東京湾岸の下水処理

東京湾は三浦半島と房総半島に囲まれた、閉鎖性水域である。 江戸時代には掘割下水や、し尿の農地還元などで、江戸湾に流れ込む有機物の量は、今より少なかったと思われる。 しかしそれでも、「江戸前の寿司」に代表されるように、あなごやしゃこ、アサクサノリといった、底性海性生物が海域の適度な富栄養化によって大量に取れるようになっていた。

しかし、明治以降、東京湾岸がどんどん埋め立てられ、東京都市域が拡大し、高度経済成長が進んでゆくと、東京湾に流れ込む、汚染された下水の量は飛躍的に増大し、ついには、東京湾の自然浄化能力が悲鳴を上げて、現在では、東京湾に放流する下水処理水は、高度処理によって、有機物だけではなく、窒素・リンまで除去するように規制されている。

高度処理された水は東京湾に放流されるのだが、ここで注目したいのは、放流水は、塩分を含んだ水ではなく、少なくとも「淡水」に区分できるという事である。 つまり、荒地にでもその放流水を撒いておけば、陸上植物が利用可能であるということである。


3.開放海域への放流:望月氏の案

望月氏のアイディアは、富栄養化してしまった、東京湾の水、もしくは下水道放流水を、房総半島をぶち抜いて、九十九里浜沖へ放流してしまおうという案である。

この開放海域への放流により、貧栄養の黒潮に乗って海流してきた魚が、少しでも早く、富栄養化された海域に入る事により、回遊魚などの海産資源の漁獲量が増えるという事も期待できる。 また、窒素・リン除去の、高度利用が不要である為、施設建設費や、未来永劫かかってくる運転経費も不要である。

しかし、この案のデメリットは、房総半島をぶち抜く、長大な水路と、ポンプなどを利用せずに、自然流下だけで房総沖まで放流水を運ぶ事が出来るかといった事である。


4.日本の原油輸入

日本は、燃料や化学製品の原料となる原油の輸入を、おもに中東域に依存している。この原油を運んでくるのは巨大なタンカーを利用しているのだが、タンカーは、原油の輸送効率を上げる為に、原油を満載した状態で、重心が安定している状況になっている。 よって、中東方面から、原油を満載して帰ってくる時は、問題無いが、中東方面へ向かう時には、重心の安定の為のバラスト水として、東京湾内のタンカー埠頭の海水を汲み上げてタンクに満載している。 海水はただだからコストが最も安いのだが、下水道の放流水もただである。
 
中東の原油産油国は、砂漠の国である。 街路樹に撒く水を作る為にも、海水を蒸留したりRO膜(逆浸透膜)を利用して、エネルギーを使って淡水を作り出している。 下水道の放流水は、人間がそのまま飲用するのには若干問題があるが、少なくとも淡水である事には間違いない。 しかも高度処理していなければ、陸上植物が最も好む、「富栄養化」された淡水なのである。


5.検疫等の問題

標記の問題について、望月氏から指摘されているが、現在の日本における入国審査の、農作物の検疫に関しては、
1.日本の農作物の病虫害となる、病気、害虫を持った農作物の輸入の禁止(これには、北米地区・中南米地区などと、各地域ごとに指定農作物・植物がある) 
2.ワシントン条約に規定された動植物の輸入禁止
の2項目である。 詳細については、成田空港の入国審査の検疫所の前にパンフレットがあって、記載されてあるそうなのだが、現在、私が確認しているところ、現地で売っている、植物の種や球根、観賞用の花卉、こけ、シダ類などは、大概大丈夫であるらしい。 したがって、中東域の各国の植物検疫も、これに準ずるものと推測される。 (第一、日本に植生しているような植物が、砂漠の国にあるとは思えない。)


6.中近東域緑化計画

そこで、また戻るが、ただの「淡水」である下水道放流水を、タンカーのバラスト水として中近東域に運んでいき、産油国の埠頭に貯留タンクを作っておいて、街路樹などへの散水や農業利用、緑地化利用に利用したら良いではないか、という事である。 タンカーから埠頭への下水放流水の積み下ろしや、植物への散布には太陽光を利用したソーラー発電による電力ポンプを利用すればよい。 なんといっても晴れの日が多いのだから、効率もいいはずである。 また、ソーラーパネルの表面も、アクリル樹脂等を利用して、細砂による摩擦でキズがつかないようにし、定期的に表面散水することで、ほこりがつかないようにすればよい。 この表面散水についても、下水放流水を利用すればよい。

さらには、鳥取大学が研究している、砂漠緑化用に、下水放流水を散布する土壌にあらかじめ高分子凝集剤を混和しておいて、昼間の地表面からの蒸発量を抑える作戦も併用すれば、さらに良い。

植物が充分に育つ前は、ソーラーパネルの下に、苗を作っておいて、ある程度の陽射しに耐えられるようになったら、パネルを移動するなどの工夫も充分可能である。


7.放流水を輸出しよう

以上の様に、下水道放流水は、場所によっては「高付加価値」の水なのである。

ここで、日本は「京都議定書」により、地球温暖化防止のために、二酸化炭素の排出量を削減しなければならない。 もちろん日本の古都の名前が冠についた議定書であるから、日本が率先してお手本を示さなければならない。
 
京都議定書の中では、先進国は、二酸化炭素の排出量を削減できない場合には、二酸化炭素の排出量に余剰のある国から、削減出来ない排出量を購入しなければならないとされている。

ここで、日本の下水道放流水で、中近東地域の緑化計画が成功したとしたら、それは、その緑化した分だけ、二酸化炭素の排出量の抑制に成功した事にならないだろうか? また、世界的な食糧不足も問題とされてきている中、中近東域が、日本の下水放流水により、穀倉地帯に変える事は出来ないだろうか?

後半から、かなり大げさな話になってきてしまったが、現在の技術があれば、すぐに着手可能な話である。 タンカー埠頭の改造と、ソーラーパネルなどの調達だけで建設できるのだから。

下水道使用者に、使用料を負担させて折角きれいにした水なのだから、出来る限り有効利用しようという、ちょっと妄想のかかった話であるが、私自身は、狭い日本国内に高速道路を延々と作りつづけるよりは、ずっとまともな話だと思っている。


                                          以上