「下水道のことを根本から考えてみませんか」下水道原論シリーズ第6話
 

下水道のことを根本から考えてみませんか(第6話)

 

 [ 6話では、下水道事業にかかる費用の公共負担分をどのように各機関に分担させるべきか、三角座標を使って具体的・定量的に探ってゆきます。]

 

7章 公共負担分の機関別分担(その2)

 

 三 「公共の責任」の機関別分担

 

下水道の設置、維持等の管理に要する経費のうち、公共で負担すべき費用については、「国」と普通地方公共団体たる「府県」及び「市町村」の三機関で分担拠出することになります。その際の負担割合は、基本的に前述の責任要素の大きさを評価して定めるのが最も合理的であると考えられます。

しかし、責任要素の大きさを定量的に評価することは、たとえ一つの機関の中でも極めて難しい問題です。まして三機関のそれについて同一の尺度をもって絶対的評価を下すとなるとなおさらです。結局のところ、それぞれの責任要素を三機関の間で相対的に評価するか、要素としての重要度を要素間で相対的に評価する程度が精一杯でしょう。

そこで、絶対的評価はさてき、要素の重みを加味した三機関の相対的評価方法を考えてみました。

以下にその方法を紹介してみたいと思います。

 

(一)  三角座標による分担割合の表示

いま、図―6のような高さが1(単位)の正三角形ABCを考えます。

このとき三角形の中にある任意の点Pから三角形の各辺までの距離abcについては

             a + b + c =1

という関係があることは良く知られています。

 

 

そこで、図―7のように、辺ABを横軸として頂点C方向への高さ(a)を国の責任(役割)分担率座標、辺BCを横軸として頂点A方向への高さ(b)を府県の責任(役割)分担率座標、辺CAを横軸として頂点B方向への高さ(c)を市町村の責任分担座標とします。

このようにすると、一つの責任要素( i )に対する各機関の負担割合を、三角座標の点Piとして一点で表示することが可能となります。この三角座標をここでは仮に「公共三機関責任分担三角座標」、略して「三者分担座標」と呼ぶことにします。

 

要素がたくさんあるときは、図―8のように、たくさんの点として示すことになります。もし、要素間に重要度の差がある時は、各点に重みを加味すれば良いのです。つまり各点に要素の重要度に応じた重りを吊すわけです。(図―9参照)

 

 

このようにした状態で三角板(座標)の重心の位置を求めれば、各辺からその重心までの距離が各機関の総合的な負担割合ということになります。

[秦の始皇帝は、中国を統一するにあたり長さ、重さ、広さなど度量衡の統一を図りました。このうち重量の基準となる錘(30斤=7.7Kg)のことを「権」といいます。錘は銅で作られましたので「銅権」と呼ばれました。そして銅権と被計測物とを天秤棒()で平衡させる力を「権力」といいました。これから転じて「権力」はさまざまな意見・主張を取り入れて、政治的にバランスをとる力を意味するようになったのだそうです。そういった意味から言えば、三角座標版の重心を支える力はまさに「権力」で、各底辺から重心までの距離は下水道事業における「各機関の権力の強さ」、裏返せば「責任の重さ」を表していると言えます。]

 

(二) 総合的負担割合の算出方法

以下、前出(七の二)の責任要素@〜Fについて一つずつ、三者分担座標の中に位置を定め、重みを与えてみることにします。

まず表―2に示すような様式の表を用意し、各要素ごとに機関間の相対的な責任の大きさを感覚的に整数(NiaNibNic)で与えます。これを合計値(Nia + Nib + Nic)で除して、割合(ai, bi, ci)を計算しておきます。この割合を「分担率」と呼ぶことにします。

 

次に、各責任要素の要素間の重要度を考えて、同様に感覚的な判断で相対的な数値、つまり重み(Wi)を与えます。任意に二つの責任要素を取出して、相対的に重要度を比較して適当に値を与え、責任要素全てに比較がゆきわたるようにして相対値を定めます。

責任要素の重みが定まったら、重みと各機関の分担率とで積(Wi×ai, Wi×bi, Wi×ci)を求めます。そして、この積の値を各機関ごとに集計し、Σ(Wi×ai)、Σ(Wi×bi)、Σ(Wi×ci)  を算出しておきます。

次に、この集計値[Σ(Wi×ai)など]を各要素の重みの合計値(ΣW i)で除し、Ag, Bg, Cgを求めると、これは三者分担座標に各要素を位置づけ、重りを吊した三角板に吊合う重心の座標を表わすことになります。

つまり、これらの値は各種責任要素の重要度を勘案しつつ総合的に求めた各機関ごとの負担割合を示すにほかなりません。

 

(三) 具体的な計算と結果について

以上の計算法を用いて筆者なりの試算を行ってみました。当然のことながら、与えた数値は筆者の独断と恣意に基づいたものであり、要素Fを除いて確たる根拠といえるものはありません。

要素Fについては、最近(昭和60年度等)の財政決算から、三機関の徴税総額の実績を参考として、国:府県:市町村の比率を211としてみました。

試算のプロセスおよび結果は表―3に示す通りです。表―3から、国は約50%、府県は約15%、市町村は約35%の負担を行うのが適当であるということなります。

 

読者の皆さんも表―2を使って自分なりの評価を行って見てください。

通常の常識的判断で数値を与えてみると、おそらく府県の負担割合が予想以上に大きな数値として算出されることに気づかれるはずです。

また、感度分析的に数値をいじっていろいろと検討をしてもらえば、判って頂けると思いますが、現状の財源構成に合わせるため、恣意的に府県の負担割合を小さくしようとすると、相当大胆に国や市町村の分担率を大きくし、重みに偏重をかけなければなりません。

ということは、現状に照らすと「三者分担座標によるこの評価方法が余り適当ではない」ことを示すものかもしれません。しかしながら、筆者はむしろ、この手法のほうが妥当であり、府県がそもそも下水道事業にもっと関与し、相応の費用負担を行って然るべきなのだということを主張しておきたいと思います。

 

(四) 府県の負担について

下水道事業に対する府県の関与の仕方としては、いろいろ考えられますが、国との間に立って調整する事務を除いて、現在では次のようなものが実施されています。

@流域別下水道整備総合計画策定

A下水道エリアマップの策定

B流域下水道の建設・管理

C公共下水道の基本計画等の策定に対する助成

D特定地域(特に過疎地域など)の公共下水道の代行建設

E公共下水道事業に対する助成

F一定規模以下の公共下水道の認可

G終末処理場の管理に関する指導等

しかし、法律で位置づけられている@、B、F、Gを除きますと、いずれも例外的措置に近く、市町村が行う公共下水道事業に、府県はあまり積極的には関与していないといえます。

これは「公共下水道事業はそもそも市町村固有の事務ではないか。何故府県が補助しなければならないのか。市町村の下水道事業に府県が補助金を交付するようなことをすれば、現在の府県の財政はパンクしてしまう。地方財政の仕組みを根幹から揺がすことになる。」といった強い主張があるためです。

一方、流域下水道について、府県は補助対象事業費の補助裏(補助金以外の部分)の1/2を負担しています。

この負担額は流域下水道の処理施設と幹線管きょ施設及び関連公共下水道の管きょを一体的な下水道システムとして捉え、それぞれの建設費の総事業費に対する割合を20%20%60%と仮定して計算すると、図―10に示すように全体建設費(総事業費)に対して府県の負担額は78%に相当する額になっていることがわかります。

 

流域下水道事業に対して府県がこの程度の負担をすることについては、流域下水道が地方自治法第2条の広域的事務として府県の手により実施されている事業であり、その広域性と事業管理者としての責務を考えると当然といえば当然です。

しかし、流域関連公共下水道と単独公共下水道との間に公平性を保とうとすれば、現状でも府県は少なくとも「単独の公共下水道の建設費」に対して総額の7〜8%に相当する金額を補助して然るべきなのではないでしょうか。

 

(五) 流域下水道事業の機関別責任要素と費用負担

流域下水道は関連公共下水道と一体となって、あたかも大規模な単独公共下水道のような形態を呈し、作動します。

従って、双方を合わせた総体についての責任要素は前述の単独公共下水道のそれと同じものと見ればよいわけです。しかし、双方を分けて別個に扱うときにはそれぞれ要素の重みと分担率は異なってきます。

つまり、流域下水道はその設置主旨から、公共用水域の水質保全に資する役割が通常の公共下水道より大きく、関連公共下水道の受け皿としての性格を有するため、先行的に整備を進めなければならないからです。

従って、「広域性」と「緊急性」に関しては表―2中の重み付き分担率、のうち、国の占める割合が大きいと見なければなりません。

一方、流域下水道施設は根幹部分であるため、地域との接触が少なくて「地域性」は薄く、市町村が僅かに支えているにすぎません。

「公平性」に関しては流域下水道が関連公共下水道の整備を誘発し、促進させることから流域下水道部分にその要素の大半が属しており、流域下水道は国是でもあることから、それは国の果たすべき責務といえましょう。

「帰属性」については、流域下水道が全体システムの一部であることから重さは相対的に小さく、事業主体が府県であることから責務は府県に属します。

資力度については三機関の分担率は変らないものの、全体システムの一部であることから重さ(重み)は小さいと考えられます。

以上のような基本的な考え方に立ち、かつ表―3の全体システムの重みつき分担率を逸脱しないよう注意を払って、筆者なりの感覚と独断で値を決めていったところ、表―4のようなものができました。個々の数値については、絶対的根拠がないのは表―3の場合と同様です。

表―4から、流域下水道については国が72%程度、府県及び市町村がそれぞれ14%程度分担すれば良いことがわかります。この結果について皆さんはいかがお考えですか。

 

 

(第6話:おわり)

 

安藤茂