「下水道のことを根本から考えてみませんか」下水道原論シリーズ第4話
 

下水道のことを根本から考えてみませんか(第4話)

 

[ 4話では、高度処理費用に関する関係者の負担のあり方について考えます。]

 

第六章 高度処理の費用負担

 

(一) 高度処理の意味

高度処理はまだ法文等で明確に定義されている言葉ではありませんが、一般に「活性汚泥法等による通常の生物学的下水処理を用いて到達し得る処理水質を更に向上させるために行われる処理をいい、BODSSの向上のほか、通常の生物処理で充分除去できない窒素やリン等の除去向上を目的とするすべての処理」とされています。

すなわち高度処理とは、生物学的な二次処理に引続いて行う砂炉過などの狭義の意味での三次処理、二次処理の機能を改良して生物学的に窒素やリン等を除去し、三次処理水と同等以上の処理水を得る狭義の高度処理、及び溶解性の有機物や塩基類を分離する超高度処理とからなっています。

従って、高度処理は多種多様であり、目的に応じて除去対象物質が異なり、物質によって処理方式が異ることは良く知られています。表―1にそれらをまとめて示して置きます。

      

 

 

 

 

 (二) 高度処理費用の負担の基本的考え方

表―1からわかるように高度処理は、@水質保全を図る上で必要なケース[(a) 及び(b) ]とA処理水を再利用する上で必要なケース(c)の二つのケースに分けて考えることができます。

高度処理の費用負担の問題も、ケースをこのように二つに分けた上で検討を進めるのが適当であろうと思われます。

まず、ケース@については受益が不特定多数の個人にあるわけですから、すべて公共が負担する事とします。但し、高度処理を行うことにより、継続して著しい受益を得る者がある場合には、その受益の程度に応じて相応の負担をさせるのが適当であると考えます。例えば、湖沼の水質保全のためにNPを除去する高度処理を行うとき、その湖沼から独占的に取水し、利用を行っている者がいるような場合などがこれに該当します。

ケースAについては受益者が特定されていますから、原則として処理水を再利用する者に負担させることにします。但し、水資源の効率的な利用を奨励する意味から、公共が一部について負担できる道は残しておく必要があるでしょう。

なお、@とAとの違いは処理水を公共用水域に一度放流しているか否かで区別するものとすします。

ところで、高度処理の費用負担者となる「公共」については、(a)放流者を代表する立場の「公共」と、(b)利水者及び受益者を代表する立場の「公共」との二つの側面がある点に留意しておく必要があります。

後にも述べますが、公共を担うものは、国、都道府県、市町村の三つの機関です。国は当然 (a)及び(b)の役割を兼ね備えており、都道府県及び市町村は、(a)の立場にある場合、(b)の立場にある場合、及び双方の立場にある場合、の三つのケースに遭遇します。

ここで、公共と個人の関係について少し考えてみることにします。一般に個人との関係からいえば公共は

個人 ⇒ 市町村 ⇒ 都道府県 ⇒ 国

のように、順次に係わりが薄れてゆきます。これは行政サービスを行う対象範囲の広がりの度合と無関係ではありません。

ある事柄に公共が投資を行う場合、その負担割合はその投資によって得られる効用がどこまで及び、その厚みというか頻度がどの程度であるのか を勘案して定めるのが適当です。

ケース@において、例えば、AB市にあるC湖の水質が高度処理の採用によって甦り、B市の市民はもち論、A県の県民、ひいては他県からも観光客が頻繁に訪れるようになったとします。

この場合、高度処理の効用は、C湖を訪れる人の数と頻度の積で表わすことができます。人口10万人のB市市民が一人平均年四回訪れるとして、延べ40万人・回となる。2百万人のA県県民のうち10人に1人が年間平均1.5回訪れるとすれば、延べ30万人・回となります。

また、県外からの訪問者が年間に延べ30万人とすれば、市、県、国の効用比率は、403030となり、負担割合もこれに応じてB40%A30%、国30%と考えるわけです。

しかし、こうした効用は単一でなく、様々な要素が混然としているものと見なければなりません。従って、それらをケースごとに遂一分析し、評価を与える必要がでてきますが、これは容易なことではありません。

後述する三角座標法で三者の負担割合を求めても良いのですが、ここでは割きって均等に責任を負っているとみなし、国、府県、市町村がそれぞれ1/3の負担をするように考えます。

なおこの場合、負担割合は高度処理の設置費と管理費の双方に関し共通と考えるのが良いと思います。しかし、制度的に管理費(経常的経費)に対して直接国費を投入できない現状からすると、国は管理費で負担すべき分を設置費に振替えて負担するような手段を構ずる必要があります。

今、設置費をI、施設耐用年数間の管理費をMとし、MIを α とすれば、国費負担分は

        ( I  +  M )3 = ( 1 +α ) I3

ですから、α が仮に1.0であれば設置費123を国費で補助金として負担するわけです。

この場合、設置費の補助裏と管理費については府県と市町村が折半で負担すれば良いと思います。なお、ここでいう管理費は狭義の意味でして、維持管理費のみを指します。

ケース@、ケースAにおける費用負担を模式的に示すと、図―5のようになります。ケース@では公共には五つの立場があり、ケースAでは三つの立場があるものの、その度合は僅かであるということになります。

        

(4話:おわり)

 

安藤茂