トンネル下水処理場(クリーン・カプセル)の開発
                 これは書きかけ途中のものです       2013/08/08 up10/16   会員  亀田 泰武      
1,はじめに
 トンネル式処理場の開発アイデアが浮かんできたのはバブル真っ盛りの昭和60年頃であった。地下式処理場は北欧で建設されていたことは知られていたがコストが高いと思われ、どこも検討されていなかった。地下工事の空間あたりの建設費は沖積層では地上に作るものの3倍くらいする高額なものである。
 ところが、神戸付近の雨水排水路の岩盤トンネル工事の建設コストが高くなかったことを教えてもらったことがあり、これがきっかけとなった。下水道工事で岩盤トンネル工事をやることはまずないので馴染みがなかったが、あるとき六甲の山をくりぬく雨水排水路工事について兵庫県で長らく下水道を担当されていた藤田俊彦さん(元下水道課長)から説明を受け、1メートルあたりの建設費がずいぶん安く、地盤がいい場所ではトンネル工事の工費が高くないことがずっと頭に残っていた。
 当時公共下水道課にいて、新規に下水道事業に着手する市町村が大きく増えてていて、平地が少なくて下水処理場の位置確保が難しそうな所がけっこうあった。平地が少ないことは、丘陵地が多いことであり、トンネル工法を下水処理場に応用してみたらどうかと思いつき、実用化方法を考えた。
 当時は土地バブルのまっただ中で、下水道事業は用地費の比率は低いとはいえ、多額のお金が用地費に費やされていた。
 実用化の検討チームをつくってもらうこととし、建設省の先輩である日本土木工業会縄田照美理事にトンネル工事の実績があるゼネコン数社を紹介していただき、下水道事業団の大迫健一設計課長のところで研究会を立ち上げてもらった。担当は札幌市から出向されていた唐牛さんであった。
 ゼネコンから細かいノウハウはもらえなかったが、できるだけ細長い方がコストが安くなるというので、研究会では細長い配置のいくつかのプランが作成された。

               鹿島クリーンセンター内部
2,事業化
 トンネルは建設費は高いが、事業運営できないほどでもないということが分かってきて、次は実施場所を探すことが課題となった。ちょうどその頃、島根県の鹿島町(現在松江市)の下水道事業が始まることになり、新規採択の要望で青山善太郎町長が建設省に来られたことがあった。鹿島町は平地が少ない一方、原子力発電所がある地盤のいいところであったので、下水処理場をトンネル方式で建設したらどうかとお話しした。
 青山町長は地元の主産業の漁業協同組合の理事長で、非常に力があり、トンネル式の処理場に計画変更するというリスクが非常に高い初めての試みについて地元をまとめていただいた。
 下水道事業を始めるに当たって、下水処理場の予定地が確定していないと全然進まないので、建設省に事業要望される頃にはどこも処理場予定地が決まっている。これを動かすとなるととんでもないことになるので、動かすのは一般に不可能に近い。鹿島町では当初、中心市街地の南にわずかに残された浜の海浜が予定されていたらしい。鹿島町の中心市街は西に流れる佐陀川の河口部にあり、海浜部は大半が漁港になっていて、南に砂浜が少し残され海水浴場になっている。トンネル処理場の候補地は中心市街地北の工場団地の奥、山際の、住宅地から離れているところで、位置としては理想的でいいが、変更するのは難しい決断になったと思われる。
 貴重な平地をできるだけ使わないこのトンネル方式を採用できたのは、青山町長が建設省に来られたとき筆者が在席していて話ができたこと、トンネル方式が世に出ていなくて、よく分からないのに、青山町長に決断していただいたことなど奇跡に近いことであった。
トンネル処理場の予定地も海に近く、冬期、日本海特有の風浪が押し寄せるところで、トンネルによって塩の飛散による機器の腐食が相当防げた利点もあったと思われる。町の担当課長には優秀な人が配置され、事業の進展も円滑に行われた。
 新しいプラントの設計には、これまでの設計標準と異なることが多く、必要な機能と設計条件を十分理解した柔軟な対応が必要で、設計建設を受託する下水道事業団でも相当異論があったそうであるが、基本計画の担当が土木研究所から出向されていた発想が柔軟な落修一さんで、施設が小さくてすむ酸素活性汚泥法で良い案をまとめてもらった。
 筆者が事業団の大阪支社に出向したときはちょうど、詳細設計に入っていたときで、担当が大阪市出向の土木は樽谷隆雄さん、設備が多分吉岡賢一さんで、空間節約のためパイプのサイズを1ランク小さくするようにお願いした覚えがある。場内配管は延長が短いため、管径が小さくなって、圧力損失が多少上がっても影響が少ないことがある。
 設計でできるだけコンパクトにして必要空間量が減るとそれだけトンネル建設費を節約することができる。

建設後、トンネル壁の結露がひどく発生したため、壁材を工夫したと聞いている。変わったことにトライすると想定外のことが起こるものである。

3,その後
 確かトンネル下水処理場が建設されたのは4カ所と思うが、これができたらよかったいうところがけっこうあり、10年くらい前に実用化されていたら10カ所くらいで採用されていたと思う。トンネル処理場は、今の下水処理設備をそのまま詰め込んでいるが、処理施設の中身もトンネルという構造に特化した形で変形が必要である。
 残念だったのは神奈川県葉山町の処理場建設であった。いろいろ話を聞いてみると、山地を大規模に削って造成した団地の住民に大反対され、処理施設が見える家は少ないと思われるのに、景観が悪くなると、地上に出る分が小さくなるように強いられ、通常のトンネルでなく、一度掘り下げて、それから横方向に掘るという、何億円と思われるきわめて割高な建設をさせられたことであった。このお金は、結局国税、市民税などの税金でまかなわれ、皆の負担となる。
 我が国では下水処理場の殆どが建設されていて今後の技術適用はないと思われるが、意外と使える土地の少ない発展途上国で、汚水の大幹線を生物反応槽として設計するなど、今後需要があるかもしれない。