総合討議 「内湾の新たな水質目標を考える」 NPO21世紀水倶楽部2011/02/24
   
(質問1) 有明海へ排出される汚濁負荷の中で畜産系の割合はどうか。
大牟田市としてはどうか。
(古賀講師:K) 具体的な割合は手元にないが、大牟田市としては生活系と産業系が大きく、農業系特に畜産系はほとんど無いと言ってよいほど少ない。有明海全体では、生活系が大きく、農業系は小さい。

(質問2) 三河湾では干潟にアサリが戻ってきたとのことだが、何が変わったのか。
(鈴木講師:S) 干潟や浅場の造成が行われ、それと並行して大量発生海域から各漁場への稚貝の移植放流が行われた。稚貝を4000トン放流して、アサリの漁獲高は2万トンとなっている。アサリはシルト質では生息できないが、砂泥であれば水深0mから10m位まで生息できるので、生息条件は広い。

(質問3) N、P制御可能な下水道処理施設は、海の生態側からみるとどのように見えるか。
(S)三河湾では、NとPが河川など陸から入ってくるものと、湾口の底層から入ってくるものがあり、下水道だけでは海域の環境基準達成は難しいと考えている。原理的に達成できないTN,TP環境基準をさらに総量規制の徹底で削減することは逆に海、特に極沿岸域を栄養不足にしてしまう。生態系への影響という点では、干潟や浅場のような場の改善が重要である。干潟・浅場は栄養を二枚貝やアマモのような生物の形に転換、貯蔵し、それらが有機物を活発に無機物に分解し新しい生産に寄与してくれる。陸からの負荷の影響が大きい極沿岸域ではプランクトン等のエサ不足で冬場にアサリが死滅したり、シラス漁が不良になるということもあり、特に海が良く混ざる秋から冬場には栄養塩類を補給することも必要である。 
(K)佐賀市では、冬季に下水処理施設の運転条件を変更し、アンモニアの形態でNを放流水に残すようにしている。これによって、最高水準の品質の良いノリが生産されている。

(質問4) BODを除去しながら放流水にアンモニアを残す運転は難しいのではないか。
(K) BODを10mg/l以下に保ちながらアンモニアを残す運転は確かに難しいが、DOコントロールをしながら努力している。

(質問5) AO法やA2O法などの高度処理が盛んに行われているが、むしろ標準法の方がよいということか。塩素消毒については。
(K)それぞれに置かれている施設の放流先の状況や利用のされ方によって大きく異なると考えられるため、一概には言えない。大牟田市や佐賀市ではノリの養殖に合わせて運転方法を変えるので、AO法での運転をおこなっている。漁業者は、海水温が大体23℃以下になって養殖を開始されるため、養殖開始状況になれば脱窒運転から硝化抑制運転方式に変えている。また、放流水の消毒に関しては、以前、消毒による色落ちの報告もあり、漁業者にとって危惧されていたが、現在は最小限の塩素注入で常に行っている(放流基準遵守)。放流先の残留塩素調査では検出されていない。

(S) 一般的にはアンモニアより硝酸形態のNの方が毒性は小さいとされている。しかし、海水の循環期(10月から4月)には、上層と下層が混じるので陸からのNやPの供給が多くなってもそれほど大きな影響がでないのではないか。

(質問6) 放流先のノリやアサリなどの生態系に合わせた水質規制というのはできるか。
(S) 内湾では貧酸素が問題になっており、まだいろいろ問題は抱えているが下水道部局、河川部局、環境部局、農林水産部局で連携をしていこうという動きが出てきている。この場合には、表層のDOではなく、底層DOが問題になる。環境省では底層DOを環境基準化しようという動きになっている。この測定は、基本的には連続観測になるが、できるところから実施して行くという観点ではバッチ観測もあり得る。

(質問7) 栄養塩とプランクトン発生の関係というのは分かっているのか。
(K) 関係は分からない。ノリの場合には、プランクトンが多い日はノリを引きあげて、少なくなるとまた沈めるというように対処している。
(S) 海水のN/P比は16程度とされているが、下水放流水の比率もこれを目途にするのがよいと考えている。

(質問8) 下水の放流先として、外国では外海へ直接放流ということもなされているが、これについての意見を伺いたい。
(S) 渥美半島沖へ放流するという案が検討されたことがあったと聞いているが、現実的にはいろいろ障害があって難しかったようだ。個人的には、流域系外から入ってくる汚濁負荷は系外に出すこともありうると思う。

(質問9) 内湾において、陸域のN、P除去効果はすぐに現れるのではなく、内湾での蓄積も含めて水質浄化にはタイムラグがあるのではないかと思うがどうか。
(S) 三河湾では、陸からと外海からの栄養塩供給が1:1で、底泥からの栄養塩溶出はその1/4程度と考えている。栄養塩除去が直接的に底層DOを制御できるものではない。水産業は海域の状況に応じて変容してきているが、それがある期間継続すると現状を維持したいという願望も当然発生する。そうした場合に、生態系への影響という点では下水処理施設が水質コントロール装置としての役割を持つことは重要であると考えている。

(まとめ)下水処理は浄化一辺倒というのがこれまでの認識であったが、放流先の状況に応じて水質コントロール装置としての役割を持つという認識は重要であり、流域の水循環を担うという位置とともに、今後も下水道の重要性を訴えていきたい。