講演 「東日本大震災が提起した課題」 2011.5.25
         早稲田大学社会環境工学科  濱田 政則 教授
       
                下水道地震・津波対策技術検討委員会委員長

委員会については、石井企画専門官より配布された資料に主旨と緊急提言が記されており、震災2か月後の東北、東京湾の被災地を訪問してきたので、今考えていることを話したい。まず卒業後40数年、地震災害をいかに減らすか研究してきた専門家として本震災は残念というだけではすまないが、極めて深刻に受け止めている。今回の震災の根源は地震予知の大失敗にある。地震予知はわが国では当分信頼を回復することは不可能であろうと感じている。

<地震の予知>
 地震の予知機関は二つあり、内閣府・中央防災会議は有史に基づく予測をしており国内
5か所の発生予測がされていた。宮城県沖は有史来50年周期で発生していたが(前回は1978年)、今後は有史以前の地質学的調査が必要との結論である。もう一つの文科省・地震調査推進本部からも宮城県沖の予測は出されていたが、今回の震源地はこの地域での海溝型大地震は起こらないとの判断があり、空白地帯であった。少々弁解になるが、我々の工学分野の「地震工学」と、地球物理系の「地震学」の分野も縦割りであって分離されていた。宮城県沖の予測にあるM7.5と今回のM9.0の差は1.5であるが、エネルギーでは180倍の差があり予測地震のM7.5180ケ同時に起きたことになる。そこで、「想定」ということを評価・見直しを要する。宮城県沖のM7.5が出た根拠は何かを含め地震予知の総括を行う必要がある。

<被害状況より>
・津波に耐えた建築構造物:陸前高田、女川の建築物で津波が抜けて行ったり、基礎が堅固で耐えた例や、スマトラ地震のモスクの例がある。耐えられなかった例は、引き波で基礎、建物も転倒した所、南蒲生の棟でRC柱が曲げられながら壁は崩落せずに残っている例は津波外力の現物例となり設計に当たり貴重な情報となる。

・橋梁の場合:コンクリート道路の橋脚では、桁・橋脚とも耐えた例があり床板の自重やスマトラの例にある橋台のストッパーが効果を果たした。しかし鉄道橋は軽量のため、流れ飛ばされた。

・防潮堤の場合:基礎部は水深60メートルにあり捨石の上にケイソン(中詰)、その上に構造物があり設計上は波浪外力のみ考慮され底からの津波外力は考えず、自重で持たせるためアンカーも杭も打てない場所での設計はハード的にも不可能であることがわかる。

・燃料貯槽:タンクは自重で持たせており、ほとんどアンカーはないため津波時浮力で浮上し油漏れ災害(火災他)を発生させた。

 これら状況から、津波に積極的に対応していくために「耐津波学」を提案する。

<耐津波学>
今までは何処まで津波が達したか、遡上したかの視点であったが、今後は工学的視点を加えて行こうという提案である。
@ 世界的な大津波に関し、歴史、文書のみでなく地質学的観点から履歴を調べる。
A 津波警報や防災教育などソフト面での研究と防災構造物などハードの研究。
B 遡上した津波の挙動は極めて重要であり、今回、同じ地域でも水の流れが異なり、水の集まる所と水の来ない所がある。また、何処を通り、どのくらいのスピードで、どの高さで走るのかなど。   現在復興に関する意見がいろいろ出ているが、グランドプランなどは意味がなく、各地域の産業、地形も異なるところで、マスタープランは東京ではなく地域に任せるべきであり、我々がどう支援するかである。高い丘陵を造成するなど地盤工学的に難しい意見も多数出ている。
C ライフライン:下水道施設の深刻さが分かったが、機能維持と早期復旧に当たり全て一律ではなく、受電施設が防水扉で浸水を逃れたことなどの例が今後参考になる。
D 防災教育:今後評価されるであろう、気仙沼などの防災教育・訓練効果を整理する。
E 臨海コンビナート:仙台、千葉での港湾火災の出火原因は未報告であるが、地震動か 漂流物で配管が破損した可能性が考えられる。東京湾のコンビナート火災は以前より危惧していた。液状化による浦安等の住宅地は埋め立てただけであるためであるが、心配は1964年以前(新潟地震の液状化問題)の古い埋立地で、東京湾など大都市の沿岸には広領域にわたって存在する。 兵庫南部地震で深江浜で起きた液状化に伴う側方流動による配管損傷は油流出を引き起す。また、浮き屋根式タンクは苫小牧の例のように、長周期地震動で蓋部分が跳ね上がり、金属衝突による発火要因となる。 東京湾で同様のタンクは約600基あり、溢れる可能性は約60基とされる。油が海に流出した場合、大型船200隻/日が回収完了まで航行停止となる。今後火力発電に頼るとなると、LNG発電所が12か所あるが2か月の海上封鎖で火力発電停止の事態が起こりうる。伊勢湾や大阪湾も同様であり、湾岸地区の耐震性も課題となる。
F 学協会の連携:22の学協会の連絡会が3月28日に組織化され動きとして
・共同ホームページに一括整理する。
・学協会それぞれによる提言が多すぎるため、それを連携にて連名で提言する。
ことが決まり、最後に基本方針を紹介する。
 過去に兵庫南部地震のあと、土木学会が提言を出し防災基本計画(中央防災会議)の考え方に反映されたが、学協会として今回の経験でまとめたものである。
基本方針の内容は簡潔である。今回の地震動は揺れ時間が長く(4~5分)疲労破壊も生じたことで、重要な点は
・  ・・国民の生命と財産に重大な影響を与えない・・
・  ・・活動の著しい停滞を防ぐ・・
完全に守りきることは不可能であり、ある程度の被害は許容することを前提とする。
最後に、委員会の審議結果は場を頂ければ、あらためて報告させていただく。                                                                                以上
<講演にて使用された資料・データは集会報告の濱田様説明資料をご参照ください>