医薬品による環境汚染  京都大学大学院工学研究科 山下 尚之
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■水環境中に残存する医薬品問題
■水環境における医薬品汚染の実態
■下水処理過程における医薬品の挙動
■水環境中の医薬品による生態影響

1.水環境中に残存する医薬品問題
・PPCPは、医薬品や化粧品など我々が使用している化学物質の総称。病院や家庭で日常的に使用。主にし尿として下水道を経由して排出され問題。
・低い生分解性・極性のため、従来型の生物処理では不十分。
・種類は、解熱鎮痛剤、抗生物質、ßブロッカ-(偏頭痛や目薬に処方)など。
・生理活性を持つように作られ、特異的に作用して低濃度で人・水生生態系に影響する可能性。毒性などのデーターが不足しているのが実情。

2.水環境における医薬品汚染の実態
・05年、琵琶湖・淀川水系の河川水、下水処理場放流水で66の医薬品を分析。
・河川水では、桂川、宇治川、淀川などで30物質が検出。カフェイン濃度が一番高い。(下水処理場というより上流部からの影響か。)
・その他では、クロタミトン(かゆみ止め)やスルピリド(抗精神薬)。
・宮前橋(桂川)、枚方大橋(左岸)の濃度が高い。(下水処理水の影響か。)
・淀川支川でも、放流水が流入する西高瀬川や山科川の濃度が高い。下水道整備途上の古川や穂谷川でも高い。(浄化槽排水の影響か。)
・下水処理場放流水では、39物質が検出。抗精神薬のスルピリドが一番高く、あとはクロタミトンやクラリスロマイシン(抗生物質)など。
・10箇所の処理場放流水は何れも高濃度、大体、河川水の10倍。オゾン処理採用の京都の処理場だけは低濃度。染色水対策のオゾン処理が、PPCP対策としても有効であることを示唆。
・枚方大橋では、流量的には下水処理場は約10%程度の負荷量。医薬品類は、、ケトプロフェンやクロタミトン等はかなりの割合が下水処理場由来。
・全国の河川を調査した結果でも、下水処理場の放流水が流入している都市河川の鶴見川などでは、アスピリンやクロタミトンの濃度が高い。

3.下水処理過程における医薬品の挙動
・生物学的窒素りん除去を用いた関西の下水処理場(A2O法が主体、一部系列でオゾンと生物活性炭処理を採用)で医薬品の挙動を調査。
・1次処理水は殆んど医薬品濃度は低下せず。生物処理で半分程度まで処理。
・オゾンでかなり医薬品を除去できるが、A2O法でも、他の処理場と比較すると半分程度に処理できており、生物処理でも、ある程度の処理は可能。
・生物処理後のオゾン処理水では濃度は著しく減少。オゾン処理の有効性。
・オゾン処理後の生物活性炭処理では、濃度減少は殆ど見られず。
・PPCP除去技術を検討するため、測定可能な30種の物質を処理対象とした3種類のプラント実験を実施。結果は次のとおり。
 ①UV単独処理:90%以上の除去は1物質のみ。UV単独処理では不十分。
 ②オゾン単独:6割以上(18種)の物質は、90%以上除去できた。
 ③促進酸化処理(UVとオゾンの組み合わせ):オゾン単独より効果が高く、
    26物質について90%以上除去することができた。
・溶存有機炭素(DOC)は、各処理法とも濃度変化が見られず。PPCPは分解されているが、副生成物、分解生成物の形で有機物として水中に残存。
・副生成物の毒性が問題になり、今後、毒性評価を検討していく必要がある。

4.水環境中の医薬品による生態影響
・水生生物への生態影響が問題。生態毒性試験として藻類成長阻害試験を実施。
・対象物質は55種。抗菌剤、解熱鎮痛剤、気管支拡張剤、その他に分類。傾向として抗菌剤、抗生物質の類(クラリスロマイシンやエリスロマイシンやトリクロサン)が藻類に対する毒性が大きい結果となった。
・解熱鎮痛剤の中では、ケトプロフェンの毒性が高かった。
・試験結果のバイオアッセイデータから無影響濃度を算出し、さらにこれに安全率として100倍したもの(予測無影響濃度)と河川・下水処理水と比較してみると、クラリスロマイシン、ケトプロフェン、トリクロサンの3物質は、予測無影響濃度より河川水や下水処理水中の濃度が高くなっており、要監視物質といえる。 

《今後の課題》
・医薬品類汚染はかなり多様性がある。色々な物質があり化学構造も異なる。サロゲートや標準物質の入手も困難。
・汚染実態についてまだまだ情報不足。特にFateはどうかなど。
・低濃度暴露の毒性、水生生物への影響、複合影響など不明なことが多い。
・抗菌剤・抗生物質は耐性菌の問題もある。
・排水処理技術は、生物処理である程度除去。一部物質は残留。オゾン処理が有効だが、副生物や残留物がありそれらの毒性影響は見ていかねばならない。
・ コストをかければ処理できるが、どこまで処理するか費用対効果。