質疑討論

質問 先ほどの、エストロゲン様活性という概念を用いたお話では、雌メダカ化に影響を及ぼす環境中の濃度が10ng-E2/l位ということでした。一方、下水処理水のほうも、運転状況とか流入水にも関連があると思われ、値がばらつくのですが、10ng-E2/l位ということですので,下水処理水そのものですと生物に影響を与える可能性があるという事ではないでしょうか。多摩川では下水処理水が7割を占めると言われており、一時、環境ホルモンが騒がれましたがノニルフェノールは大したことはなくて、女性ホルモンの影響により、生物の生息にとって余りいい状況ではない可能性があると思われますがどうでしょうか。

鈴木講師 基本的には、下水処理場ではBOD除去、窒素除去などを目的に処理が行われているがエストロゲン除去を目的としていないのでこういう状況にあるといえる。しかし、先程来述べている様に、酸素濃度をコントロールするとか可能な場合にはSRTを長めに保持することにより濃度は低下するのではないかと思っている。また、多摩川で流下方向の負荷量を調べたデータでは、夏場はかなり低い状態で推移している。冬場に少し高くなる傾向があるが、これは微生物の活性が少し落ちているためではないかと考えられている。ただ、冬場は河川水温も低く、水温が低いとメダカのメス化も抑えられる。この当りをどう判断するかということもある。それから、多摩川については、延べ28週間の試験を実施したが、その時かなりの頻度でビテロゲニンが生成するかと思っていたが結局1ケースだけであった。ここでは15ng-E2/l以下と書いているが通常もっと低い濃度で推移していた。最近では多摩川流域の処理場は硝化促進などを行っておられる様で、そういう処理をやれば余りこういう状況は起こりにくいのではないかと考えている。

質問 はじめに、大津川を例にとって、河川水が主体だと思うが、エストロゲンの実態把握の話をされた。その中で、下水道の普及率が低いほどやはりエストロゲンの濃度が高いと言う様におっしゃったと思いましたがそれでいいのでしょうか。

鈴木講師 上流側のほうが下水の普及が遅くて単独浄化槽が多い。下水道の普及の遅いほうがエストロゲンの活性が高い。

質問 それでお聞きしたかったのは、非常に重要なポイントだと思うのですが、活性が高くなる起源というのはどういう風に考えたらいいのか。今、仰った様に、単独浄化槽から多く出てきているのか、未処理下水が活性を高めているのかそこをお聞きしたい。

鈴木講師 エストロゲンのソースとしては、人のし尿か家畜のし尿かである。家畜については地中に浸透するのでそんなに出てこないのではないかと考えていて、一番大きいのは単独浄化槽ではないかと考えている。下水道ではSRTを長く取ったり酸素をきちんと供給すればエストロゲンは下がるが、単独浄化槽は処理時間も短いし負荷も高いので、多分逆のことが起こっているのであろうと思う。

質問 これは非常に大事なことで、河川の上流の方で過疎地域のような所はこれから下水道の整備などやっていられない、浄化槽でやって下さいということになると、そのようなことが問題にならないのでしょうか。

鈴木講師 ただ、合併浄化槽がどうかという評価まではしていない。それは又別途検討しないといけない。

質問 昨年、私どもで病原微生物の研究集会があり、ノロビールスの下水への流入が冬に非常に多いという話がありましたが、特に飲む薬にも結構季節変動があって、風邪の多い冬場に抗生物質の濃度も高くなるのでしょうか。

山下講師 私どもも、季節変化に興味があり、近くの処理場で毎月サンプリングを行い医薬品の分析を行っている最中である。まだ、データは十分整理し切れていないが、大まかには抗生物質はやはり季節によって違いがあるという傾向は出てきている様である。風邪薬と一緒に処方されることもあるのでやはり冬場に濃度が高い値になってきている。あと、解熱鎮痛剤も風邪薬と一緒に処方されるので高い濃度で出てくる傾向がある。ただ、総量も当然効いてくると思うが、処理という点でも冬の方が温度が低下し除去率も若干低下する傾向が考えられるので、処理の面からの影響で、放流水中の濃度が高くなる傾向が考えられる。

質問 結構濃度が高いクラリスロマイシンは何に使われている薬でしょうか。

山下講師 抗菌スペクトルでどういう細菌類に効くかある程度の範囲が示されているが、広範囲に効く抗生物質で通常の風邪薬とか色々な感染症とかかなり広い範囲で使われている。

質問 PAHsは種類が多くて複雑な化学構造式を持っていますが、亀の甲を見ると、これに塩素がくっつくと非常に毒性が上がる気がしています。非常に種類が多い中で毒性の強そうなもの弱そうなものがあるでしょうか。

中島講師 非常に難しい質問ですが、ベンズピレンとかベンズアントラセンとかが研究が進んでいて発がん性のあることが分っている。毒性の高い低いの比較は非常に難しく、例えば、急性毒性試験をこういったPAHsを使ってやると出来なくはないが、もともと水に余り溶けないので出てくる結果は飽和の状態に近い結果が出てきたりする。それは、現実的でない場合も多いし、そうなると、現実の水環境の中では、水の方から来る毒性だとすると、ベンズピレンでは亀の甲が五つあってベンズアンスラセンでは四つなんですが、それよりも少ない三つや二つの物質のほうが現実には毒性が高いという議論もある。塩素化のPAHsもまれではあるが研究している人もいるし、ニトロ化のPAHsも研究されているが、大体、大気の研究の話で、ニトロ化の方は毒性が非常に高いが存在量も少ないのでそれでほぼ同じ位という議論も良くされる。塩素化のほうはそう言うデータすらまだ無い状態で、ほとんど研究が進んでいない状況と思われる。

質問 亜鉛の話がありましたが、サプリメントとしてよく売っているのですが、フリー亜鉛が問題とおっしゃったのですが元々入っているのか飲んだ後はどうなるのでしょうか。

中島講師 亜鉛は、いろんな形によって吸収の度合いが違う。人間の消化のプロセスを考えるとどうも有機物にくっついた状態で食べる方がより吸収されるとかという話もあるがその方面は余り詳しくないのでどういった形で出てくるかは分らない。先ほどの下水処理場の流入水や流出水のデータにしても結局何とくっついているか、まだ分らない。排出された状態のものがそのまま下水処理で何も起きずに出てきているのか、人間から出た後に例えば、洗剤の方に入っているキレート剤などにくっついて別の錯体になっているのか色んな可能性があり今のところ分らない。

質問 環境ホルモンの問題は10年ぐらい前に出てきて大きな問題になって議論されてきました。私の記憶では最初は「奪われし未来」という本でかなり化学物質が標的に上がって人間をはじめ生物の雄雌の関係にかく乱を与えているということで問題とされた記憶があります。今日の鈴木さんの話によると、ノニルフェノールという物質もあるが本来人間とか人畜から出るホルモンの問題を解決するのが結構大きな課題になると受け取りましたが、最近世界的に見て、環境ホルモンの問題が、化学物質から人畜由来の物質を第一に考えて、これをどうするのかが議論の的になって来ているのかどうかこの辺についてお伺いしたい。

鈴木講師 国際的動向ということですが、環境省がイギリスの環境省等と環境ホルモンに関する共同研究をしていて土研もそのメンバーに入っている。この問題がイギリスで生じたということで向こうの研究の主だったサンプター先生などの話を聞いていると当初は化学物質と思っていた。色々研究を進めたけれどもやはり女性ホルモンということに行き着いたといわれている。環境省の環境安全課は今人畜由来のエストロゲンに興味を示している。規制がどうなるかは分からないがそれに関する興味はすごく持っている。

質問 他の外国での規制状況とかはどうでしょうか。

鈴木講師 イギリスでデモンストレーションプログラムが進んでいて、下水処理場でのエストロゲン濃度の目標値として先ほどから出ているピーネックという予測環境影響濃度をにじます影響から出して、E2が1,E1が3を目標値として掲げている。向こうではピルも目標に入っている。それを達成するための処理法を検討するということで極端だと思うが活性炭吸着とかオゾン処理等を水会社などを使いながら環境省がお金を出して進めていくと聞いている。

質問 亜鉛のことでお聞きします。先ほど水生生物の保存に係わる水質環境基準の値が淡水域で30μg/lで決まったと言うことですが、私の昔のイメージで言いますと人の健康に係わる環境基準と排水基準とが連動している形で、排水基準は単純に言うと希釈されるのでその10分の1ぐらいが環境基準と思っていた。水生生物の保存に係わる水質環境基準というのは、今度、排水基準が2mg/lと決められたので10倍に希釈されると考えると200μg/lに相当すると思われる。淡水の規制値の30μg/lとはかなりの差があるようですが排水基準と水生生物の保存に係わる水質環境基準とは連動していないと理解してよいのでしょうか。排水基準と環境基準はどういう形で、人の健康とは違った形で整理されているのかなと言う気もするのですが、その点、最近の状況を教えて下さい。

中島講師 多分、最初の考えはそうだったと思う。普通に十倍の濃度で10分の1に希釈されるからと言うことで、色んな人がそういう心配されてあの環境基準ができてきて色んな人が文句を言ったんだと思う。そこから先は、現実的な所、落とし所がそこにあったのかなと言うところが正直な所だと思っている。今の処理の技術も考えた時にそれぐらいで十分じゃないかと言うことだと思うが、もしかしたらもっと深い意味があるのかもしれないが、諸外国の規制濃度なども考えてこれ位の濃度ではどうであろうかと言う線だということは聞いている。もしかしたら別のもっと細かいことがあるかもしれませんが。

質問 亜鉛に取り組まれた動機をお話し頂けないでしょうか。

中島講師 もちろん、環境基準等世の中の流れもありましたが、私は最初からずっとPAHsを研究していて有機物の方も見ていましたが、重金属も道路排水に沢山入っていてそちらのほうはどうかなと関心を持った訳です。もちろん、鉛やクロム等有害な金属は沢山道路排水中に入っています。その中で固体にくっついているものは途中でトラップされる可能性があるのではないか、溶存体のものの方が大事かなと思い、銅とか亜鉛とかそのへんが特に注目できるかなと思ってかつ人間への影響よりも生態への影響の面で濃度の差が非常にあり、人間への影響は大したことはなくても生物への影響があるので面白いかなと思った。

質問 亜鉛というとトタン屋根が思い浮かぶのですが合流式と分流式では亜鉛濃度は違うのでしょうか。

中島講師 先ほどのデータには分流合流両方のデータが入っている。雨の日に採ったデータではないので明らかな違いがあるかと言われるとそこまでデータを持っていないので分からない。雨が入るからと言っても、薄まるのも一方ではあるので一概に濃度が高くなる低くなるとは言えないのではないかという気がする。入ってくるものは違うので形態が変わるかと言われればそうかもしれない。

質問 亜鉛の環境基準が決まった事によって、30μg/lですが、河川の濃度などを見てみますとどうしても都市河川が結構危ないかなという箇所が出てきている。多分それをずっと追いかけていくと下水処理場というか都市活動から出てくる亜鉛は高そうな感じがする。先生のお話では、濃度だけではなくて色んな有機物との結合状態なども考えて本当の対策があるべきとの考えもあると思いますが、近々排水基準の設定という問題が出てくると思いますし、下水道としても多分何らかの対策をすることが迫られると思います。亜鉛の対策をある意味では結構お金をかけてしなければいけないのでしょうがそれでいいのでしょうか。全体の有害物質の中で、今日は微量有害物質ですがその中で亜鉛だけが特記されて、法律的には対策しなければならないが全体のバランスの中でそれでよかったのかなと思いお聞きしたい。

中島講師 確かに、そもそも、あの数字を決めるプロセスがいいのかという議論が先ずあると思う。一つの生物に対して毒性影響を見ていてという議論があるんで、それが厳しすぎるのではないかという点はかなり議論されるべきかなとは思う。もう作った以上はやらなければならないが、そうなった時には出来るだけ同時に色んな物を除去できるプロセスを導入することがいいのかなと思う。亜鉛とその他の有機物を一緒に除去することはなかなか難しいかもしれないが、副次的に色んな物が取れるような、先ほどまだ待ち構えているリストは沢山あると言いましたが、その辺をにらんで亜鉛だけに特化したと言うことではなくて、色んなものを取れるように考えておけば副次的に良くなる。環境基準も逐次見直すべきもので、色々な意見があってどういう生態系にすべきかもっと議論するところが必要ではないかそれが正直な感想です。一度作ればそれでいいというものではなく、これでみんなが着目したのを良い機会にしてこれで議論仕直せばいいと思う。そういう意味でも意義のある環境基準の設定であったと思う。今まで考えなかった視点で作っているのでそれで皆いいのか、将来に向けて日本はその方向でいいのかを議論する題材になったと思う。

質問 医薬品とPAHsについて日本で研究が進んでいないこともあって外国ではどこが相当熱心に取り組まれているでしょうか。

山下講師 医薬品の問題は、環境ホルモン問題とリンクして起こってきた様な問題の一つで環境ホルモンの一つで人由来のエストロゲン、エストラジオールなどがありますし、あと一つ問題なのは医薬品といえる様なピルとかに含まれているエチニルエストラジオールで、そういう様な挙動とリンクして同じように人が飲んでそこから下水中に出ていってそういう化学物質がどうなっていくのかが問題となる。エストロゲンの問題もイギリス、ヨーロッパのあたりから出て来たと言うことで、医薬品もイギリス、ドイツの方でかなりこういう研究がなされている。また、EUとかを中心としてポセイドンと言ったプロジェクトで医薬品の水環境中での挙動等を追ったりかなり活発に研究がなされている。報告書も出ていてその中では水処理の過程でどうなっていくかのデータも出ている。日本では、若干遅れていて、最近ここ数年で医薬品の水環境中のデータが出始めた所で、実際、排水基準や環境基準は当然無いが医薬品での基準がありダブルスタンダードになっていくので基準を定めるのも法律的に難しい面もある。

中島講師 PAHsのほうではアメリカが非常に精力的であり、色々なデータを持っている。規制の話では大気が殆どで食物のほうはEUでの含有量基準が決まっているが日本ではまだない。水に関して言うと、油汚染による港湾底の汚染に関心があるので、海に面している国、たとえばアメリカ、カナダ、オランダといったような国などで研究が多くなされている。そう言う国では底質の方のガイドラインも作っていて、こういう汚染レベルであったらどうという議論もなされている。それはやはり科学者だけの議論ではなく、色んな人が色んな考え方を出していて統一的な見解は未だ国際的にない。そう言う基準に照らして東京周辺の汚染状況を見るとグレーゾーンかなと思う。