##■視点21 2009.12.10 水道産業新聞
下水道と合併浄化槽は「適地住み分け」の関係
高名な評論家による浄化槽団体の言い分掲載に異議あり


 最近、全国紙の6段抜きで、高名な政治評論家の名で浄化槽管理業団体の言い分がほとんどそのまま掲載されるという奇観が見られた。見る人が見れば実態はこうではない、何か変だと気がつくが、かの独裁者が言ったように「嘘も100回繰り返せば本当になる」こともある。一般への影響も考え、また質量ともに十分な情報を持ち腐れにしている関係者の怠慢と臆病を糺す意味からも、問題を提起したい。
 08年度末の下水道普及率は72・7%だが、「残る27・3%を全て下水道」とは、関係者は誰も考えていない。集合処理に適さない場所は造らないのが常識ではないか。「あと40兆円かかる」という作り話はいい加減で止めてもらいたい。
 「国の繰入金は1兆5千億円」は、交付税基準財政需要額と交付額の意識的混同だし、「地方の起債額は2兆1千億円」は今も景気対策ピーク時と同額の起債をしているように見せる意図的ネグレクトである。
「地方債の利率5%」は10数年前の水準で、現在は国債利率にプレミアムをつけた2%前後という実態を知らないならば金融に無知だし、知っていて書いたなら誤解を招く。
「都市でも地方でも、汚水処理はまず汚水と生活排水を一緒に浄化する合併浄化槽を作るところから始まる」話は、合併浄化槽の補助制度が創設され世間に認知された昭和62年、さらに浄化槽法改正で単独浄化槽の新設が禁止された平成12年、すでに下水道普及率は一定の水準に達していた歴史・経緯と異なっている。「(合併浄化槽を作り)次に地方団体が下水道を造り、排水をそこにつないだ時点で合併浄化槽を壊せ――というのが下水道法の主旨である」も全くの誤解であり「一から勉強して下さい」としか言えない。
 たしかに、下水道の普及に伴い、浄化槽は盛大に潰されているが、それはし尿しか処理できず生活排水は垂れ流しとなっている単独浄化槽である。環境省の一般廃棄物処理調査を見れば、平成12、18年度の比較で単独浄化槽が5995千人分(3〜5人槽として百数十万基)撤去されたことが分かるが、同じ期間に農集排接続人口を含む合併浄化槽利用人口(農集排の処理場は法的には合併浄化槽である。)は2373千人増えている。このように、合併浄化槽は、自治体から生活排水処理の一翼を担うものとして認知されており、下水道とは相互補完、適地住み分け。機能分担の関係にあり対立的なものではない。いたずらに対立的な見方を持ち込み、下水道を貶めれば自分の仕事が増えるという考えは、了見違いも甚だしいというほかない。
 さらに、下水道の修繕費をあげつらうのは、浄化槽はより耐用年数が短く定期的な買い替えが必要な事実を隠しているし、年1回の法定検査すら過半数が受検していない管理の実態を無視したコスト比較はセールストークとしては成立するだろうが、まじめに浄化槽と取り組んでいる市町村からは賛意を得られないであろう。
 下水道処理区域に取り込まれた浄化槽の問題については、下水道・浄化槽双方の有識者を集めた懇談会で、「このレベルの管理が行われれば、法律の改正をしなくても下水道管理者の判断で個別対応できる」という結論が出ている。業界寄りの議員提案と同じ内容が政府提案で出るようなことになれば歴史に汚点を残す。われわれは政務三役の良識を信じるし、与党も責任ある地位に立った以上は一部業界の意見によりかかって全国の市町村長を敵に回すような道に走らないことを信じる。(投稿)