最先端の科学技術と事業仕分け(怒りの激論)           2010年6月20日記
                                         水倶楽部会員 齋藤 均
水処理や下水道とは離れた話題から始まるが、科学技術と事業仕分けの関係について、本人は、良いトピック「激怒の投稿」と思い込んでいるので、雑文を紹介させて頂く。

 平成22年6月14日。地球を離れてから7年の月日を経て、日本の探査衛星「はやぶさ」が地球に戻ってきた。途中、1.小惑星イトカワ着陸時の姿勢制御がうまく行かず、鉄球をイトカワ表面にぶつけ、舞い上がった表面のサンプルを採取するという計画がうまく行かなかった。2.燃料漏れにより、地球に対する姿勢が乱れて、交信不能となり、宇宙の中で1ヶ月以上も行方不明になった。3.燃料漏れにより、はやぶさ自体のシステムの温度がものすごく下がり、電子機器が運用出来なくなった。4.4基あるエンジンのうち、3基が壊れてしまった。などなど、本当に満身創痍で地球へ戻ってきた。
 2.の行方不明になった時には、一時はやぶさが宇宙空間にチリと消えてしまったものと、日本宇宙開発機構:JAXA(ジャクサ)の担当者も、あきらめかけたという。
 そのはやぶさが7年の月日をかけて、とにかく関係者の努力により、地球に戻ってきた。
 地球=日本の研究所まで運ばれた、はやぶさの試料採取カプセルの中には、着陸時の衝撃でイトカワ表面のサンプルが入っているかもしれないという。
 日本各地のプラネタリウムでは、はやぶさミッションに関する天体ショーを行い、平日でも大盛況になった。プラネタリウムを訪れた子供達だけでなく誰しもに、夢を与えることが出来た。
 ロケットの打ち上げに関して、米国やロシア・EUなどから1歩遅れをとっている日本であるが、「はやぶさ」の活躍により、宇宙探査に関しては、世界で1番の技術を持った国となった。もう、他国の追随を許さない位の飛び抜けてすばらしい技術である。

 ここで、事業仕分けである。「科学技術は2番じゃいけないのですか?」という女仕分け人蓮舫氏により、JAXAの予算は前年度300億円だったのが、はやぶさ関連事業は3億円に減額されてしまったそうだ。「はやぶさ」のプロジェクトリーダーは、早速、「はやぶさは奇跡的に、地球まで戻ってきてほっとしたが、それまでに起こしたトラブルを、技術的に精査改良し、はやぶさU号の開発にすぐにでも着手したいけれど、予算が無くて無理だ。」とコメントした。

 他国の追随を許さない世界トップの技術を守るのに、予算をケチってどうするの? 米国NASAやロシア、EU、中国でもなしえなかったすばらしい事業で、はやぶさの記録のほとんどが「ギネスブック」にも掲載されるというのに。

 はやぶさの目的は「太陽系の出来た過程を、その経歴が残っていると思われる、地球外側軌道のアステロイドベルト内小惑星、イトカワからサンプルを採取し、宇宙の謎を解明する」という事である。
 そんな事、明日の産業の何に関係するの?と言われればそれまでであるが、こういった基礎科学技術を積み上げて行く事で、新しい技術が生まれ、それを応用し、日常生活用に改良・応用する事で、新しい産業技術が生まれ、生活環境が改善・進歩するのである。

 話変わって、米国のNASAであるが、スペースシャトルで一時代を築いたけれど、その後の安全性より経済性を優先した事による、チャレンジャー号の打ち上げ時爆発事故。打ち上げ時の、耐熱タイル剥離の状態下で着陸を強行した為の、コロンビア号の墜落炎上事故と事故が相次いだ。(この事は、技術士総合監理部門のテキストに、トレードオフの実例として詳細に載っている。)
 その為に、宇宙事業開発予算を、スペースシャトルの安全航行確保の為の事故予防対策予算として湯水の様に使用した為、現在は次世代の宇宙往復機、スペースプレーンの開発予算が全く無く、現行のシャトルの維持とISS(国際宇宙ステーション)の運用にやっとと言う事であるらしい。対するロシアや中国は、従来の使い捨て型ソユーズロケットとその派生型の使用により宇宙開発を行っている。

 両国とも1党独裁の社会主義なので、民意がどうであろうと、「宇宙開発を優先的に進める」とトップが決めたら、予算はほぼ毎年潤沢につく。
 そして日本。少ない資源と限られた人材の中、智恵を絞って、「他の事業に予算を回せ」と言われながらも少ない予算をやりくりして、「はやぶさ」の事業を行い、成功させた。
 はやぶさプロジェクトの成功する以前に、「宇宙探査はなぜ多額の予算が必要なのですか?」と100分の1に予算を減らされてしまった。これでは、世界1位のずばぬけた技術を維持することは出来ない。 技術を維持することが出来ないと言うことは、日本が開発した世界1位の技術をドブに捨てると言う事である。
 とにかく、資源が無く、労働賃金も高い日本は、高い技術力で世界の中で勝負するしかない。その技術開発に対する予算を削るというのは、「日本は国力を捨てて衰退しろ」という、政治家の短絡的判断でしかない。政治家本人はそう思っていないかもしれないが、日本において、「科学技術予算は削る」と言う事は、そう言う事なのである。技術開発力に比較して安い賃金で懸命に働いている、科学者・技術者に対しては、「予算・人件費を削れ」と言うのに、政治家達自身で、「国会議員の定数を減らせ。議員の年棒を減らせ。議員年金を廃止しろ。」と言いだす人は全くいない。自分達は金に汚いのに、技術立国日本を支えている産業界や、技術界の予算・人件費だけは容赦無く削る。どういう事だ?

 現与党の民主党議員は、「日本が世界の中で国体を護って生き残っていくには、どうしたら良いのか?」と言う事をもっと勉強して欲しい。事業仕分けで無駄な予算を減らすと言って、基礎技術系の予算をばっさり切ったのはいいけれど、逆に、義務教育ではない、高等学校の授業料を無償にする必要があるのか?
 高校進学率がほぼ100%に達したから、授業料を無償にするのか? あまりに安易過ぎる。大体、高校卒業率の統計は取っているのか? 70%程度ではないのか? ちなみに僕が高校に通学した頃は、1年生で45人7クラス入学すると、卒業までに1クラスの半分が退学し、クラス半分が留年した。
 それで、差し引きほぼ±0で、ちょうど7クラス分が卒業すると言うパターンだった。
 高校進学率がほとんど100%だからと言って、無償にする必要がどこにあるのか? 義務教育ではないし、高等教育というのは、「自主的に勉学に励みたいと思う者」が授業を受ける場所であって、だから、高校入試があるし、入試で不合格になる者も居るのだ。その上、高等学校まで「ゆとり教育」にして、大学生の質が目に見えて下がってきていると言うのに…。大学の講義の最中に携帯電話でE-Mailをしている生徒の率を調べたらどうなのだ!! 女子生徒の中には、化粧直しをしている者も居るのだぞ!!

 最後に本論に戻り、下水道の世界では、活性汚泥法をモディファイする事で、窒素・リンを除去する技術を進めてきている。
窒素に関しては、BOD/N比のコントロールと、亜硝酸菌・硝酸菌と脱窒菌による、嫌気・好気運転による除去方法が主流となり、その反応槽運転パラメーターや、効率的運転の為の手法の研究、また、それぞれ作用する細菌が分離同定されつつあるので、その細菌を優先的に繁殖させた反応槽の開発(JSのペガサス等)が進んでいる。
 それに対し、リン除去については、活性汚泥のリンの過剰摂取作用を生物学的に利用することは分かっているが、リンを過剰摂取する細菌がどの細菌であるか、活性汚泥の中から、分離同定がほとんど出来ていない。また、過剰摂取のメカニズムもよく分かっていない。これらの研究を進める為には、活性汚泥を構成する細菌群を生きたまま、個体分離する手法と、個々の菌体の分離同定手法の開発など、基礎研究としてやるべき事はまだまだ山のように沢山あるが、民主党の議員様は、「下水道は金食い虫だから予算は削りましょう」と言う。
 ちょっと国際的に視野を広げてみればすぐに分かる事だが、リン鉱石は肥料として有用だが、その枯渇が叫ばれている。特に米国からは、リン鉱石の日本への輸入は出来なくなった。リン鉱石の最大輸出国であった「ナウル」でも、リン鉱石の採取・輸出が禁止された。農産物の収穫量を増大させてきた肥料が不足し、日本の農業も生産性が落ちて破綻するかもしれないのだ。
ここで、下水道からリンを回収でき、肥料として利用する技術が完成すれば、すばらしい技術革命になるのだが、活性汚泥の菌体の同定法、リンを過剰摂取する細菌の発見、あるいは、物理化学的なリン除去法からのリンの効率的回収といった研究に対して、予算が潤沢に投下されたと言う話は、ついぞ聞かない。
 また、政府与党の浄化槽信仰による、浄化槽での汚水処理の整備を特別に推進しているが、その浄化槽の管理が不十分で汚泥を引き抜かず、かえって環境に悪影響を与えているデータを彼らは知らない。浄化槽を政治家が見学すると言えば、その地域の浄化槽の担当者は、概してうまく運転され、汚水処理がうまくいっている浄化槽だけ、おざなりのように彼らに見せていると言う事が分からないのだろうか?
 もちろん、汚水排水距離と下水管の建設コストの理論(佐藤和明会員が詳しい)で浄化槽による排水処理整備地域と、下水道整備地域の棲み分けは必要である。しかし、その棲み分けマップを作成するのは、「汚水処理をどうしたら金銭的・環境的に効率的かつ有用なのか?」と言う事を、汚水技術をほとんど知らない、地方市町村の一事務処理担当者であり、誰も彼に技術的アドバイスをする形になっていない。
 当然、その地方から選出された政治家(お偉い人・有力者)に彼が相談すれば、技術的な整合性は無視して、政治家達関連企業の利益の為に計画を誘導していく。

 以前、「技術立国・日本の自叙伝」というNHKの番組があったが、現在は政治家主導により、日本が開発なしえた、高度な技術を捨てまくって、周辺各国にいい顔を見せている状況になっている、この状況で、日本の明日はどうなるのだろうか?

 平成22年6月20日現在、宮崎県では肉牛の「口蹄疫」により、数多くの優秀な種牛を含む牛が殺処分され、県の産業そのものが破綻しようとしている。それなのに、国会では政治不信により内閣が新しく組閣された。一方で参議院の半数が改選の任期だからといって、国会議員の選挙をやる事が決定し、選挙戦が始まった。
 政治家は何を考えているのか? 今、この時を考えたら、選挙活動などやっていないで、宮崎牛を全国挙げて救う事を考えるのが先ではないのか? それなのに、「政治資金がどうの・マニュフェストが何だ」とネガティブキャンペーンで足の引っ張り合いをし、国会は「宮崎牛の口蹄疫対策の為に、臨時予算を用意、処分先の確保、自衛隊の協力や、全国の獣医さん達の協力、それにワクチンの製造・開発に製薬会社のラインを確保して全力をあげ対応する」と言った、今、国として本当にやらなければならない事は、何も議論されずに終了した。
 議論されたのは、与党のマニュフェスト関連と、政治資金の流れの不透明さなど足の引っ張り合いだけだ。優秀な官僚が居るから、国会討論する政治家は宮崎牛の口蹄疫の様な「些末な事」は彼らに任せておけばいいのか?

 事業仕分けとかっこつけた自己保身ばかり考えている政治家、現在は世紀末になってしまったとしか思えない。
 もう、どうでもいいから、今現在現役の国会議員が、全員新規リニューアルしてくれないかと思う。民意や、科学技術的正論、そして、将来の国力の発展という事から離れて、自己保身と、見栄と、政治家としての利権確保と収入の為だけに妄動するのが、日本の国会議員である事がよく分かった。民衆はみなそう感じていると思う。
国会、つまり衆議院と参議院本会議は終わってしまったので非常に残念だが、出来る事なら、僕は過激な一市民として、その会場で自爆テロを行いたい位だ。一度英知を絞って達成した科学技術を、「あまり役に立ちそうにないから」と言う理由で、予算を切り捨ててしまったら、二度とその技術は立ち直れないと言うことを、科学技術立国を代表する国会議員でありながら、分かっていない人が多すぎる。もっと勉強しろ
 「秘書がやったことです。私は知りません。」と言って、国会議員手当てをごまかしたりする。その手当てと同額程度の研究費用を用いて、われわれ技術者が、どんなに涙ぐましい努力をして、日本の基盤技術と基盤産業を支えているのか、分かっていないよ!! ふざけるな国会議員と政治家連中!!

PS.その後、JAXAには「はやぶさU」の為の予算が多少ついたそうだ。失敗していたら、どうなっていたのだろう? いきなり大臣に登用された蓮舫女史に答弁して欲しい。